なんでスピーカーは自作なのか




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■私が自作に走ったわけ
 初めてスピーカーを自作したのは高校時代だった。時はオーディオブーム真っ盛り。一家に1セットは大きなシステムコンポがあった。「音好き」だった私は小遣いでLPプレーヤー、アンプ、FMチューナーを購入した。パイオニア製の一番安い製品群である。しかし、市販スピーカーを買う金まではなかった。そこで友人の勧めもあり、自分で作るという道を選んだ。自作はやはり安く上げることができるのである。

 周囲にスピーカーを自作する人はいなかったので、一冊の本を参考書とした。故・長岡鉄男著の「オーディオ日曜大工」である。細かい音響理論は抜きにして、実例集を網羅したこの本を片手に、私はスピーカー自作の第一歩を歩むことにした。しかしそっくり同じものを作るのも面白くない。そこで少しだけスピーカー工作の理論を勉強して、オリジナルの箱を作ることにした。

 まずは秋葉原に行き(私をそそのかした友人に同行願った)、16cm口径のフルレンジユニットを2本3000円で購入した。今から考えると高音質オーディオ用には程遠い代物だが、無限の夢の音が詰まってるユニットに私には感じられた。それからラワン材の合板(910x1820mm)を買ってきた。どこで買ったのか覚えてない。それを自宅でノコギリで裁断した。まずユニット取り付け口を回し挽きノコで苦労して丸く開けた(これが一番大変だった)。ユニットがきちんとはまるか何度も試してみた。大きな板に開いた丸穴にユニットがきっちり納まった時にまず感動。そしてユニットにコードをつなぎ、とりあえず音を出したい誘惑に駆られた。

 実はスピーカーユニットは箱に入れる前に、裸でちゃんと音が出るかチェックをしていた。不良品ではなかったので音は鳴ったが、蚊の鳴くような貧相な音だった。しかし、大きな板に開いた穴にユニットを入れ、音を鳴らしてみると信じられないような低音がボンボン出てきたのである。この瞬間に私の人生の半分は決まってしまったのかもしれない。

 そのあとは箱を組み立て、仕上げを施し、実際にステレオシステムの一員として、自作スピーカーは活躍をする。あれから何十個スピーカーを作っただろう。今では多少は人様にお聴かせできるものが作れるようになったが、それでもあの初号機の初めての音出しの瞬間が忘れられない。それは決して市販スピーカーよりいい音ではなかったかもしれないが、私にとっては夢に満ち溢れた音色だったのである。


■自作スピーカーのメリット
 現在は大型のステレオコンポーネントがすたり、ステレオといえばミニコンポ、マイクロコンポといわれるCDプレーヤーからスピーカーまでが一体化したお手頃価格のものが主流である。たしかにこれはこれでバランスのとれたいい音がする。ステレオは音楽を再生する道具、と考えればこれで十分かもしれない。

 私はひきあいにクルマの話をよくするのだが、本来クルマも移動のための道具としての「自動車」であった。しかしそれとは別に運転自体を楽しみ、アクセサリーをつけ、性能アップのために改造をする、そういう楽しみ方もあるのだ。これは「趣味」のクルマである。ステレオ装置も同様で単なる音楽再生用品に終わらせることなく、趣味のオーディオとして楽しむことで、新しい世界が広がってくる。

 さてそうしたときに、実際に自分でいじれる部分はどこなのか、ということになる。ひとつはスピーカーケーブルなどのアクセサリー類を交換、追加するという楽しみ方。しかしこれだけではミニコンポクラスでは違いがわからない。かといって、アンプやCDプレーヤーを作るというのは至難の業である。そこへいくとスピーカー作りはとても手ごろなのだ。

 スピーカーユニットは買ってくるしかないが、エンクロージャと呼ばれる箱は、図工の時間に椅子や本棚を作ったレベルの工作力で作れてしまうのだ。そして、とりあえず箱を作り、コードをつなげば失敗なく音が出る。しかも世界に2つとない自分だけの全くのオリジナルものである。値段も安く上げようとすれば、1万円以内で2個作れ、ステレオで楽しめる。ミニコンポにもスピーカー端子があるので、そこにつなげばオリジナルシステムの完成である。

 自分が手塩にかけた「子供」はかわいい。しかも自作したことで原理がわかってくるので、あとでいろいろいじる楽しみが出てくる。スピーカーケーブルを換えたり、セッティングを変えたり、楽しみは尽きない。今まで聴いてたCDに、こんな音が入っていたのか、という再発見も起きる。そういうすばらしい世界を特に若い人たちに体験してもらいたい。またこれからはまだ体力も気力も十分なリタイア組の先輩諸氏が増えてくる。そういう方々にも音楽をオーディオを改めて楽しんでいただきたいし、日曜大工感覚でスピーカーも作ってもらいたいのだ。

 このサイトがそのような方々の新しい世界を開く扉になればありがたいな。そう思う今日この頃なのである。


χανι